「船員の働き方改革」につきまして、船員の労働時間を中心にご説明いたします。
(1)1日や1週間当たりの労働時間規制
船員の労働時間は原則として
1日当たり8時間以内。1週間当たり40時間以内。
この時間を超えて働いた時間は時間外労働となります。そして船舶所有者(使用者)が船員に時間外労働をさせるには時間外労働協定(※後述)を結ぶ必要があります。では協定を結べば何時間でも時間外労働をさせていいのかというと、そうではありません。これにも上限があります。
上限時間 1日当たり14時間。1週間当たり72時間。
つまり、労使協定を結んだからといっても上限時間を超えて働かせることはできません。
しかし航海中に不測の事態が生じたときでも、上限時間を超えて働かせることはできないのでしょうか?
(2)安全臨時労働について 船員法第64条第1項
船長は、航海の安全を確保するために臨時の必要がある場合は、上記の1日や1週間当たりの労働時間規制を超えて、海員を作業に従事させることができます。ではどのような作業が安全臨時労働に該当するのでしょうか。
例えば・・・
- 濃霧等悪天時における航行当直体制の強化
- 船舶航行に直接関係のある機器の故障修理
- 急病人の発生による作業量増加(航行の安全に係るものに限る)
- 船員労務官等による船舶に対する臨時の検査、監督等(日程調整されるなどして予め計画されたものを除く)への対応
以上のような「航海の開始にあたって予定し難い作業が生じた場合であって速やかな作業を要するもの」が安全臨時労働に該当します。
これらの判断は、一次的には船長が行いますが、客観的に判断される必要があります。そして、仮に作業に臨時の必要がなかったとしても、船長や海員が作業従事した以上、船舶所有者は当該時間を労働時間として取り扱う必要があります。そしてこの安全臨時労働は、労働時間の上限規制(1日14時間、週72時間)の対象とはなりません。ただし、安全臨時労働であっても割増手当の支払いは必要です。
(3)特別な必要がある場合の作業とは?船員法第64条第2項、施行規則第42条の9
船長は特別の必要がある場合には、上限規制(1日14時間、週72時間)の範囲内で、自ら作業に従事し、又は海員を作業に従事させることができます。ここでポイントとなるのは上限規制の範囲内であれば、ということです。ではどのような作業が「特別な必要がある場合」となるのでしょうか。その対象となる作業と1日当たりの限度時間が定められています。
- 船舶が港を出入りするとき、船舶が狭い水路を通過するときその他の場合において航海当直の員数を増加するとき 4時間
- 防火操練、救命艇操練その他これらに類似する作業に従事するとき 当該作業に従事するために必要な時間
- 航海当直の通常の交代のために必要な作業にするとき 1時間
- 通関手続、検疫等の衛生手続その他の法令(外国の法令を含む。)に基づく手続のために必要な作業に従事するとき 2時間
- 事務部の部員が調理作業その他の日常的な作業以外の一時的な作業に従事するとき 2時間
これらの作業に関しては、船長は1日8時間を超えて自ら作業に従事し、又は海員を作業に従事させることができます。
(4)時間外労働協定とは 法第64条の2 施行規則第42条の9の2
船舶所有者(使用者)が船員に時間外労働をさせるには時間外労働協定を結ぶ必要があります。船舶所有者は誰と協定を結ぶ必要があるのでしょうか?
使用する船員の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、船員の過半数で組織する労働組合がないときは船員の過半数を代表する者と結びます。それから協定は必ず書面にする必要があります。そして国土交通大臣に届け出る必要があります。
以上の手続きを経て、労働時間の制限を超えて船員を作業に従事させることができます。
また、時間外労働協定を締結するには必ず記載しなければならない事項があります。
- 時間外労働をさせる必要がある具体的事由
- 対象となる船員の職務と員数
- 作業の種類
- 労働時間の制限を超えて作業に従事させることができる期間、時間数の限度と、当該限度を遵守するための措置
これらの事項を記載したうえで、当該協定(労働協約による場合を除く。)の、有効期間を定めなければなりません。この有効期間の定めは、3年以内としてください。
(5)緊急作業について 船員法第68条
最後に「緊急作業」についてご説明いたします。ひとことで申し上げますと「緊急作業」は労働時間とはなりません。人命、船舶若しくは積荷の安全を図るため又は人命若しくは他の船舶を救助するため緊急を要する作業に従事する場合が該当します。なお、海員にあっては船長の命令により従事する場合に限られます。
それから、緊急作業に従事させたときは、船舶の運航の安全の確保に支障を及ぼさない限りにおいて、当該作業の終了後できる限り速やかに休息を付与するように務める必要があります。
以上、令和4年4月に改正が行われました「船員の働き方改革」につきまして、船員の労働時間を中心にご説明させていただきました。
参照:「船員の労務管理の適正化に関するガイドライン」の解説 https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001593871.pdf