はじめに、「船員の働き方改革」の概要
2022年4月に「船員の働き方改革」がスタートしました。この改革は、船員の労働に関し課題となっている長時間労働や長期連続乗船の改善や多様な働き方の実現を目指すものです。船員(派遣船員を含む。)の労務管理の適正化を促すための所要の改正がなされました。
具体的には
1. 労務管理記録簿の備置き義務
2. 労務管理記録簿作成のための船員の労働時間の状況の把握義務
3. 労務管理記録簿等の管理を行う労務管理責任者の選任義務
4. 労務管理責任者の意見等を勘案し、必要な労務管理上の適切な措置
以上のようにこの改革の根幹となるのは適切な労務管理とその記録になります。そして
労務管理を行う上で欠かせないものが、そのルールである就業規則です。
そこで、この度は就業規則の作成・変更についてその手順やルールを記します。
就業規則の意義について
就業規則は労務管理を行うもので欠かせないものです。それだけではなく、あらかじめ労働時間や給料その他の報酬をはじめ、人事・服務規律などを定め、労使間のトラブルを回避します。そして船員が安心して働ける明るい職場を作る基礎となるものです。
就業規則が必要な船舶所有者(会社等)とそのルールについては次のとおりです。
1. 常時10人以上の船員を使用している船舶所有者(会社等)は就業規則を作成し、船員がいつでも見られるよう に船内及び事業場等の見やすい場所に掲示し又は備え置かなければなりません。
2. 就業規則を作成したとき、変更したときは所轄の地方運輸局長に届け出なければなりません。
3. 就業規則は国土交通省の定めに従い、作成または変更する必要があります。
「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」就業規則の作成について
就業規則には必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と船舶所有者がルールを定める場合には記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。
絶対的必要記載事項は次のとおりです。
1. 給料その他の報酬
給料その他の報酬を決定し、支払い方法、支払時期並びに昇給に基準に関する事項。
2. 労働時間
基準労働時間、休息時間、当直割及び当直の交代方法並びに交代乗船制等に関する事項
3. 休日及び休暇
時期、方法及び場所に関する事項
4. 定員
海員の職務及び員数及び員数並びに船舶の名称、総トン数、主機の出力、航行区域又は従業区域、就航航路又は操業海域及び用途に関する事項
相対的必要記載事項は次のとおりです。
1. 食料並びに安全及び衛生
2. 被服及び日用品
3. 陸上における宿泊、休養、医療及び慰安の施設
4. 災害補償
5. 失業手当、雇止手当及び退職手当
6. 送還
7. 教育
8. 賞罰
9. その他労働条件(雇用船員すべてに適用されるルールに関する事項など)
就業規則の作成及び変更の届け出について
就業規則を作成したとき、変更したときは所轄の地方運輸局長に届け出なければなりません。届け出の際には、船員の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合の意見書、過半数で組織する労働組合がない場合は船員の過半数を代表する者の意見書に加え、代表者選任の同意書又は委任状(提示)が必要になります。
就業規則の見直しは、船員のモチベーションの向上や働き手の確保につながります。公正な処遇の確保や、組織内の秩序と規律の維持、法令順守の促進など、各企業が重要とする事項を船員に周知させるためにも役立ちます。「船員の働き方改革」を進めるうえで欠かせない就業規則について記載しました。海で働く方々のお役に立てれば幸甚です。
船員の労務管理や船舶検査の申請などのご相談がございましたら、当事務所までご遠慮なく連絡ください。初回無料で対応いたします。
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用語の解説 (「船員の働き方改革」を理解するうえで必要な用語の解説)
常時10人以上の船員を使用する船舶所有者は、就業規則を作成しなければならない。ここでいう「船員」とは誰のことでしょうか?「船員」とは「船長・海員」と「予備船員」を指します。また「海員」とは船長以外の乗組員で労働の対償として報酬を支払われる者です。つまり船で働く船長以外の人です。海員をさらに分けると、航海士や機関長
などの「職員」と職員以外の「部員」になります。
ところで、「予備船員」とはどのような人でしょうか?端的に言うと乗船していない船員のことを指します。船舶に乗り組むために雇用されているものの船舶に乗り組んでいない
(下船中の船員)です。
予備船員を理解したついでにちょっと深入りして、船員と船舶所有者の間の契約について説明します。船員と船舶所有者の間には2つの契約形態があります。「雇用契約」と「雇入(やといいれ)契約」です。「雇用契約」は船に乗っていない間も契約が継続します。就職してから退職まで続く契約です。一方「雇入契約」は乗船時に締結する
契約です。乗船から下船するまでの間、乗船中に限った契約になります。予備船員制度を採用する会社(船舶所有者)は船員と「雇用契約」を結ぶことになります。そして乗船時には「雇入契約」を結びます。つまり予備船員は2つの契約を結ぶことになります。
その他にも「船員の働き方改革」を理解するうえで必要な用語があります、例えば「船舶」、「基準労働期間」、「補償休日」など・・・
これらにつきましては、随時投稿する予定です。
※漁船に乗り組む船員については貨物・旅客船とは就労形態が異なることから別途ルールが定められています。
参考文献
「船員の労働管理の適正化に関するガイドライン」 国土交通省海事局 令和4年4月版
「船員労働ハンドブック 今知りたい!働くときの法令基礎知識」 国土交通省海事局 令和4年9月版
「船員モデル就業規則」の解説 国土交通省海事局船員政策課 令和5年7月版